聞こえるのは、自分が吸って、吐く、呼吸の音だけ。あとは何も聞こえない。
体は軽く、ゆっくりと動いている。
目の前には、たくさんのビビッドに彩られた魚や珊瑚礁が、
今にもすぐに手の届くところに、 これでもかと言うほどに広がっている。
今、僕たちは深度16mの海の底。自由に泳いでいる。
恐怖は感じない。ただ、目の前の世界に驚き、興奮している。
僕らがタオ島に来たのは、スキューバダイビングの免許を取るためだ。
カオサンで水着を購入し、VIPな二階建てバスに乗ってチュンポーンという港町まで走り、
チュンポーンからスピードボートに乗って、ナンユアン島を経由しタオ島まで飛ばす。
スゲェ!まるで絵に描いたような、これぞリゾート!
着いたときは天気も最高、港の海の時点で熱帯魚が群れをつくって泳いでいるのが見える!
これから、この中を泳ぐことになるのか...期待に胸が膨らむぜ。
ついに始まった講習第一日目!
三日間お世話になるインストラクターは名はトモさんという。
ここでは僕らにとっては大先生だ。きちんと言う事をきかなければ!
基本的な知識を叩き込む一日目は、超晴天だったが、ずっと室内講習。
トモさんも「今日潜れたらよかったんだけどね〜」 と。
二日目の午前はプール実習、午後からはもう海の実習になる。
しかし、プールでの実習で僕らは、かなりの不安を覚える。
レギュレーターをくわえると空気は入ってくるが、ほんとにこれで海に潜れるのだろうか?
言う事をきかず、勝手に水面から顔を出した僕らにトモさんが厳しく叱る。
スキューバダイビングで一番あってはならないのは、恐怖によるパニック。
パニクって、深いところから急浮上すれば命に関わる。一日目に習った。
苦しいと感じて水面から顔を出したいと思っても、急に一人で上がってはいけないのだ。
初めてレギュレーターをくわえてプールに入った時、水中で空気が吸えたのは感動した。
しかし、このまま何十分も果して潜っていられるかどうか、不安でたまらない。
でも10歳のこどもでも上手に潜るよと、トモさんは言う。
リエも同じく不安を覚えていて、二人で重ーいランチを食べたあと、
午後の海での実習を迎える。
超不安で迎えたファーストダイブ、意を決して海に飛び込んだ。
落ち着いて落ち着いて...リラックス....ゆっくり息を吸い、ゆっくり息を吐く...
...なるほど....こういうことかもしれない...!なんかわかったぞ。
自分でも驚いた。落ち着いた呼吸のコツをつかんだ気がしたのだ。
リエを見ると「Good」のサインが返ってきた!
プールでできずに心配された耳抜きも、問題なくできたようだ。よかったよかった。
深くふかく、どんどん沈む。
何回も耳抜きをしながら、海の底に沈んで行く。
プール実習でのトモさんの言葉がいくつも頭をよぎる。
ゆっくり息を吸い、ゆっくり息を吐きなさい...
僕もリエも、トモさんの言っていたことを思い出しながら潜った.......そして海底。
小さな針千本とタツノオトシゴが僕らを迎えてくれた。
おぉ...これが海底の世界か...!なんだかうれしくてたまらない!
生まれて初めて肉眼で目にした、大自然の光景だった。
珊瑚礁、魚の群れ、上を見れば自分の出した無数の気泡が太陽にキラキラと反射している。
サイケに彩られた魚やウツボ、ウニ、見る物全てが興味深い。
「生きている」という言葉がぴったりの世界だ!
僕らはトモさんの道案内で海の底を自由に泳ぎ回った。
しかし、ダイビングがこんなにも気持ちがいいものだとは思わなかった...
重さは全く感じず、文字通り魚になった気分だぜ!
まだまだ居たかったがエアーの残量を考えて、名残惜しくも浮上したのだった。
三日目の海での実習も楽しく終え、僕らはCカード(オープンウォーター)をゲット!
夫婦ともにダイビングの魅力に捕われ、これから金のかかる旅が予想されるのだった...。
(リョウスケ) |