パチパチパチパチパチ.....!!
空港での身内からの拍手ほどありがたく、照れくさいものは世の中にはそう無いだろう。
入国ゲートをくぐり、前を見ると懐かしい顔ぶれがそろっているのが見えた。
ウチのオトンとオカンと妹、そして妻・リエのオヤジさんとオフクロさんとお姉ちゃんが
うれしそうに僕らに暑い拍手を送っている。
「おぉ〜よく帰って来たな!おかえり〜!」
「あんたたち、まぁそんな汚い服着ちゃってまぁ〜...」
「それにしてもよく帰って来た!おめでとう!」
おめで...って...ありがとう...。
ここは名古屋のセントレア。
2007年12月29日。僕ら夫婦は世界一周旅行から日本へ帰って来た。
最後の最後に僕とリエの荷物は見事にロストバゲージになってしまい、
そのせいで手続きなどで時間を食ってしまって周りには人が全然いなかったが、
あたたかい家族に囲まれながら、手ぶらで一年五ヶ月ぶりの日本を歩いたのだった。
「アフリカに比べたら日本は寒いだろう?」
親父が僕の肩に自分のジャケットを掛けてくれた。
スキヤキ。
この言葉にここまで心臓がバクバクし、
どうしようもないくらい信じられない気持ちになったのはこの日が生まれて初めてだった。自分でもビックリだ。
「日本に帰ったらウマい飯だ!」
旅の間、その言葉はもはや暗黙の了解のようになっていて
夫婦間でも気をつけて口には出さないでいたくらいだ。
しかし、帰る日を大晦日の前日にしたのは、
ただ単に日本行きの安い航空券がその日だっただけではあるが、正月近くのこの日、
実家のメシがいつもとは違うだろうという甘い期待は充分にあった。
「うぉ〜〜!なんだこれ〜!!すげぇ!!マジ豪華!!こんなごちそう見たことない!!」
ここは僕の実家、リエのご両親もいるのに自分のうちの飯をほめたら...とか何とかいう
アイデアは1ミリもなかった。ただ単に見たものに興奮していた。しかも夫婦で。
それに家のスキヤキは別に特別なものではない。
「いっただきま〜す!いいんだよね?ホントにこんなに肉食べてもいいんだよね?」
グツグツいう鍋から肉を取って卵に付けて興奮しながら食った。
やわらかい。肉が本当に柔らかかった。
なんて柔らかい肉なんだ。肉ってこんなに柔らかくておいしいんだ。
ウマすぎて涙が出そうだ。
「ウマいっ!ウマいと人間ホントに涙が出そうになるね!」
そう言いながら家族の顔を見た。
そのとき僕は、自分がグッスグッス泣いてるのに一瞬気付かなかった。
涙がどんどん出て来て、そのうちウォーと声を出して泣いた。
もういいんだ、と思った。もう安心の世界なんだと思った。
もうお金を盗まれる心配もないし、銃も、強盗も、食い物がなくて困ることもない。
マラリアもないし、病気になってもすぐ近くに病院もある。水道も出る。お湯まで出る。
布団で寝る前に砂や虫を払いのけなくてもいいだろう。
とにかく肉がウマすぎて仕方がない。僕はウォーと泣きながら肉を卵に付けてほおばった。
卵。
ジンバブエでは物資が極端に少なくて、その日卵が買えたらラッキーという時もあった。
こんな贅沢な卵の使い方してるの知ったら、ジンバブエの人たちなんて思うだろう。
「こんなの食べれない人、いっぱいいるのに...」
明るい食卓の中、僕は何も考えずに泣きながらごく自然にこんなコトを言ってしまった。
「............................................................」
「....ほらっ、アンタがスキヤキにしよって言うから、お兄ちゃんには早かったのよ...」
「ってぇ、オレのせいかよぉ...」
ウチのオカンがよくわからないこと言って弟がバシッと叩かれている。スマン、弟よ!
そんな言葉で我に帰って周りを見ると、
かなり前から家族一同大沈黙、ドンビキで箸を止めていたことに気付いた。
いや、悲しいんじゃないし、食べたくないんじゃない。嫌なんじゃない。
久しぶりに家族が集まって、
こんなにもあたたかくて素晴らしいごちそうが食べることができて、
うれしかったのだ!
みんな知ってるのかな。
スキヤキが奇跡のようにウマいってこと。
(リョウスケ)
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