冷房ガンガン、まるでシベリアのように寒く、
そして、まるで酒場のように騒がしいマイアミ空港での耳栓を使って寝た一泊、
翌朝6時半にチェックインした僕らは、8時半には1ヶ月を過ごしたアメリカを発ち、
9時半にはメキシコのカンクンに着いていた。
僕らはメキシコのガイドブックは持っておらず、
あるのはカンクンのどこかにあるという日本人宿「CASA 吉田」の住所だけ。
まったくどこにあるのやら。
車でドライブの優雅な一ヶ月を過ごしていたせいか、旅のカンがニブっている。
そうそう、まず、メキシコのお金を下ろさねば!
ATMで降ろしたあと、外に出るとタクシーが待ち構えていた。
「どこに行きたいの〜」
住所を見せると「わかった」と。でもちょっと高い。
とりあえず外は、思わず空港の中に引き返したくなるようなくらいの暑さ!
暑いし仕方がないか〜...と思って乗ろうとすると、リエが「バスだよ、バス!」と。
リエのが旅のカンを早く取り戻したようだった。
バスはかなり快適で、僕らをカンクンの「セントロ(センター)」まで運んでくれた。
このバス停から「CASA 吉田」は近いようだ。
地図も無く、持っているのは住所を書いた小さなメモだけ。
とりあえずバスステーションから外に出て、近くにいる人に聞いてみる。
「ちょっとわからないな」
そんなことを言っているのだと思う。メキシコはスペイン語。
空港まではなんとか英語が通じたが、ここまで来ると全部スペイン語。
それに住所だけ見せられても、わからなくて当然だろうな。
でもある時「知ってる」というような明るい顔をしたオッサンがいた。
よくあるメキシカンハットをかぶって、いかにも怪しそうに見える。
「ついてこい」みたいなことを言うので、僕がついて行こうとすると、
リエが「いいの?」と。確かに。確かに僕はカンがニブっているかも。
しかし、このままここにいてもしようがない。
何の疑いもなくついて行くのと、疑いながらついて行くのとでは大きく違う。
とりあえず疑いながら、僕らはついて行ったのだった。
重い荷物を背負った僕らに関係なく、オッサンはヒョイヒョイ進む。
しかも灼熱!汗が滴り落ちる。
2分前まで疑っていたくせに「待って〜」と言いながら、
僕らは無事「CASA 吉田」に着いた。
なんだ〜、オッサンありがと!ただのスゴくいい人じゃん!
オッサンは笑いながら手を振って、門が開く前にもう行ってしまったのだった。
「グラシアス(ありがとう)」という言葉だけ知っておいて良かった!
「吉田」はリエの旧姓と同じ。
標識を見ていると、家に帰ってきたみたい。なんかホッとする。
女の子が門を開けてくれ、中に入ると吉田さんがいた。
真っ黒に焼けた、もの静かで丁寧な中年の紳士で、僕らを部屋に案内してくれた。
ここにはメキシコの日本語ガイドブックもあり、インターネットもキッチンもある。
スーパーも近いし、バスステーションも近い。過ごしやすいかも!
この日僕らは早々と部屋に入りや、メキシコ旅行の計画を立てたのだった。
明くる日、僕らは次への移動地をパレンケに決めたので、
チェックアウトする旨を吉田さんに告げに行くと、
なんとそのまま4時間以上も話し込んでしまった。
吉田さんはオモシロい!何でも知っている。
僕らがこの旅で知ったことはほとんど知っていて、
メキシコについての些細な話に始まり、宗教、戦争について、
国問題について、銀行のこと、日本のこと、アメリカのこと、世界のこと、
そしてメキシコのマヤ文明のこと...話は尽きなかった。
仕事柄、いろんなことに興味があって...と吉田さんはガイドの仕事もしている。
メキシコに住むと決め、メキシコの人と結婚して、娘さんもいて、家庭がある。
物静かだと思った吉田さんは、歴史の先生のように丁寧に、ゆっくりと話す。
でもオモシロい話がどんどん出てくるのだ。
バスの時間が心配なので、僕らは外に出た。
早くもメキシコでオモシロい人に出会ってしまった。
(リョウスケ) |